屋上緑化実践事例・取材日記
「大阪ガス実験集合住宅NEXT21・屋上庭園」の巻

屋上庭園をめぐる自然環境、住環境の変化や、現在の維持管理について「大阪ガス株式会社 都市圏営業部」の加茂みどりさんにお話を伺いました。インタビューは、東邦レオ株式会社 松浦弘三です。

【インタビュー内容】

松浦

宜しくお願いします。実験住宅として8年目を迎える「NEXT21」ですが、緑のボリュームも増え、都市の中に忽然と現われるオアシスのようになりましたね。このような実験住宅を建てられたきっかけはどのようなものだったのですか?

加茂さん

緑に覆われたNEXT21
緑に覆われたNEXT21

「NEXT21」は、21世紀の都市型集合住宅のあり方を提案することを目的に建てられました。環境と共生しながら、いかにゆとりある生活を確保できるか、住環境の向上、生態系の復元、環境教育・都市部の熱環境の低減などをテーマに居住実験を行なっています。


松浦

屋上庭園や1階のエコロジカルガーデンを始め、各階に緑地が設けられていることが大きな特徴ですね。

加茂さん

屋上に飛来してきた野鳥が1階まで降りやすいように、緑の連続性をもったセットバックの構造になっているんです。でも野鳥は竣工後すぐに屋上に飛来してきましたけど、1階のエコロジカルガーデンまで降りてくるのに2〜3ヶ月の時差がありました。

鳥から見える光景と飛来した野鳥
鳥から見える光景と飛来した野鳥

松浦

今までどんな野鳥が飛来してきたのですか?

加茂さん

1階に日本野鳥の会の事務所があり、観測していただいています。エコロジカルガーデンには、よくサギやメジロがきます。どうやらエコロジカルガーデンの鯉を狙っているようです。今までに観測した野鳥は22種にものぼっています。その他トンボや蝶なども多く見受けます。都市部のちょっとした生息空間でも生物は集まってくるんですね。生命力の強さを感じます。

松浦

屋上庭園では、植栽時にはなかった自生の植物も見受けられますね。

加茂さん

屋上庭園に育つ 実生の桐の木
屋上庭園に育つ
実生の桐の木

鳥が連れてきたのか、風で種が飛んできたのかは分かりませんが、現在21種類の植物が自生しています。「NEXT21」の屋上庭園の中で一番背が高い桐の木も植栽後に発芽したものなんですよ。その反面、うまく適合できなかったのか、枯れてしまった植物もありました。屋上庭園に合う木と合わない木があるようです。


松浦

淘汰を行ないながら緑を媒介に、その場所ならでは生態系、いわば生命のサイクルが始まっているんですね。

加茂さん

以前、野鳥の会の方が「きじばと」の巣を見つけられました。この「きじばと」のヒナは、その後無事に巣立っていきましたが、次の世代が生まれるということが、「NEXT21」のテーマとして掲げている生態系の復元に繋がるのでは、と考えています。

「きじばと」の巣と巣立つ直前のヒナ
「きじばと」の巣と巣立つ直前のヒナ

松浦

居住されている方は、「NEXT21」の生活をどう思われているのですか?

加茂さん

松浦

加茂さん

ゴールデンウィークの時期は、花がとてもきれいなので、特にお友達を呼びたくなるそうです。子供たちは、屋上にあるみかんの木の実がなるのを毎年楽しみにしています。ただ目を離していると野鳥が啄ばんでしまうので、いつも競争になっていますけど(笑)。実際の生活面としては、「NEXT21」で立体街路として位置付けている共有廊下を有効に活用していただいています。緑の豊かな空間を散策したり、子供を遊ばせながら、奥様どうしで立ち話をされたりと使われ方はいろいろです。特に地際から緑が植えられているので、プランターが置いてある状態とは雰囲気が違うように感じます。

花に囲まれた立体街路と共有空間での1コマ
花に囲まれた立体街路と共有空間での1コマ

松浦

屋上庭園の散水や施肥などの維持管理は、現在どのように行なわれているのですか?

加茂さん

散水管理については中水を利用しています。施肥管理については特にまだ行なってはいません。

松浦

以前躯体に対する根の影響について調査をされたとお聞きしたのですが?

加茂さん

はい。竣工から5〜6年が経過した後、掘り返しの実験を行いました。一番下層に入っている耐根層を超えている根はありませんでしたので。特に今のところ問題はなさそうです。

松浦

植物の管理はどのように行なわれているのですか?

加茂さん

第1フェーズとなる5年間の居住実験においては、自然のままにをコンセプトに、庭園は会社が維持管理することになりました。管理内容は1年に1回剪定する程度です。ただ管理が居住されている方自身の対象ではなくなってしまったため、例えば、ただ落ち葉があることが、管理が悪いとクレームになってしまうような、庭園との間に心理的な距離ができてしまったように思えます。そこで第二フェーズとなる居住実験の募集では、緑地の管理を条件にしました。現在では、高木などの剪定は居住者が業者へ発注し、それ以外は自らで維持管理を行っています。

松浦

緑づくりにおいては、維持管理をどう捉えるかが重要なポイントになります。特にマンションやビルのような、緑の作り手と受け手が異なる場合、維持管理には一番頭を悩ませるところだと思います。

加茂さん

緑はそこに住む人にも、周囲の人にも精神的な安らぎを与え、生態系の復元に寄与し、熱環境の向上にも効果をもたらすことが分かりました。でも周辺住民が緑地を自らの住環境として、積極的に選択し、その意義を理解し、自ら管理や維持を行わないと都市部での存続は難しいと思っています。

松浦

貴重なお話をどうもありがとうございました。

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