青梅市立総合病院

青空のもと、色とりどりの花々が美しい青梅市立総合病院の屋上庭園。この病院に屋上庭園が設けられた目的やその背景について、管理課の施設係長 村木 晃さんにお話を伺いました。インタビューは東邦レオ株式会社 環境開発事業部の伊東 孝浩です。

伊東

「小さな小径」

宜しくお願い致します。屋上庭園が完成して早や3年が経過しました。「小さな小径」と名付けられたこの庭園を訪れると、患者さんと御家族がくつろいでいる家族の団欒の光景をよく目にします。庭園からは奥多摩の山々や眼下に多摩川が見渡せ、とてもきれいな景色ですね。


村木さん

青梅は、東京から50km程離れた秩父多摩甲斐国立公園の入り口に位置しています。河岸段丘(かがんだんきゅう)の上に病院が建っていますので、ロケーションはとても良いですね。

伊東

屋上庭園が出来る前は、どのように活用されていたのですか?

村木さん

建設当時(昭和54年)から少しの時期、バルコニーを活用して日なたぼっこや、お話をする場所として使われていたそうですが、その後はほとんど活用されていませんでした。20年は使われていなかったと思います。コンクリートが腐敗して黒くなって、目地のところから苔や雑草が生えていました。病棟の窓からは奥多摩のきれいな山並みが見えるのですが、目の前に殺伐とした、風化したコンクリートの風景が露呈していた訳です。

伊東

屋上のバルコニーを庭園として活用するというアイデアは、どのように生まれてきたのでしょうか?

村木さん

「癒しと安らぎの環境賞」の病院部門で最優秀賞、総務大臣賞を受賞

この病院は、もともと「癒し」と「やすらぎの空間」をテーマにしていることもありますが、大きなきっかけとなったのは、2つの賞をいただいたことです。平成14年に癒しと安らぎの環境フォーラムが主催する「癒しと安らぎの環境賞」の病院部門で最優秀賞、翌年には経営面が良好であるということが評価されて総務大臣賞を受賞したことにより、次に病院の中で何ができるのかといった課題を考える中から、老朽化している建物をどうにかしていきたいということで、汚れていた屋上のバルコニーを庭園として甦らせるという取り組みが加速しました。


伊東

屋上庭園にあたっては、どのようなコンセプトを設定されていたのでしょうか?

村木さん

そうですね。地球温暖化防止対策という観点だけでなく、ここを「病院ならではの機能を兼ね備えた屋上庭園」にしたいという希望があり、「病院ならでは」のキーワードとして「リハビリ」に着目しました。この屋上庭園では「4つのリハビリ」というものをコンセプトにしています。1つは、心臓疾患などで入院されている方のための「心筋リハ(心臓のリハビリとしての負担を掛けた歩く訓練)」です。2つ目が「整形外科的リハビリ」、そして内分泌系・糖尿病で入院されている方のための「運動療法的リハビリ」、最後に屋上庭園の一部を利用して、精神科に入院している患者さんの「作業療法的庭園」です。これらの機能を兼ね備えた庭園として、設計を依頼しました。そして約700m2のバルコニーが、東西50mの遊歩道を兼ね備えた屋上庭園として生まれ変わったのです。

伊東

改修工事ということで、1平方メートル当たり120kgまでの荷重設定のもと、ご設計を担当された伊藤喜三郎建築研究所の宇都宮さんとお話する中で、軽量の人工土壌を用いて季節を感じられる花壇や芝生空間を提案させていただきました。

村木さん

今回、屋上庭園が実現できた背景には、屋上緑化の技術開発が目覚しく躍進していたことが大きなポイントになっています。特に耐根システムや軽量土壌ですね。このような技術や間伐材を利用したウッドチップ舗装など、地場のものをうまく取り入れながら、私たちの希望する4つの機能を持った屋上庭園が生まれたと思います。

伊東

屋上庭園は6時から開放されていますね。ここには何か理由があるのですか?

村木さん

当初は7時から開放していましたが、朝6時に変更しようとアイデアを出されたのは原院長先生です。内分泌代謝科、いわゆる糖尿病で入院されている方は、食事の前、特に朝起きたらすぐの運動療法が最も効果的ということで始まりました。私は医療のことは詳しくありませんが、人は横になって寝ている間、血液も滞留していて臓器も休んでいます。そこで起きてすぐ体に負荷を掛けると新陳代謝が良くなるということで、朝歩くことが効果的だそうです。患者さんからは「病院の中を朝早くから歩くのも気を使ってしまうし、病院の外へ出て行くのも大変なので、屋上庭園が出来て良かった」と言われています。屋上庭園を歩いているだけでも、自然の空気やさわやかな風に触れられて、とても気持ちがいいそうですよ。

インタビュー風景

伊東

屋上庭園が出来たことによる皆様の「声」を、もう少し教えていただけますか?

村木さん

そうですね。「窓越しにみる山並みの遠い緑だけでなく、窓のすぐ外に草花が楽しめて、香りも感じる。そういうことがとってもうれしくて、自分に力が沸いてくる。早く元気になりたい」と言われる婦人科の患者さんもいらっしゃいました。ある患者さんは、窓から見える家の方角の山を見て、「早く元気になって、また山の仕事がしたい」と言われていました。入院患者の方が、周囲の患者の方々に「屋上庭園に行ってごらんよ!」とご紹介いただくこともあります。屋上庭園が出来たことによって、ここを訪れる患者さんが大変増えています。患者さんから「この場所を利用することによって自分の中に活力が生まれてくる」といったお話を伺うと、とってもうれしいですね。薄汚れてしまったバルコニーがあって、どうしようかと悩んでいた頃と比べると数段の差だと思います。

伊東

私もこの屋上庭園は、人の気持ちを生き生きさせる「見えないチカラ」があるように感じます。

村木さん

職員にとっても、屋上庭園を何気なく通ることで気持ちがリフレッシュし、またがんばろうという意欲が沸く場所だと思います。

伊東

反対に、屋上庭園が出来て困ったことはありますか?

村木さん

屋上からのルーフドレン(雨どい)が屋上庭園を横切るため、「またぐ」ようにウッドデッキを造っていますが、そこを走ってしまうと「ポコポコ」とした音が階下に響いてしまうことですね。ウッドチップ舗装のところは全然問題ないのですが、ウッドデッキの部分だけは下が空洞になっている関係で、振動が共鳴して太鼓現象になってしまうようです。建築的に防ぐのは難しいようなので、空洞を埋めるような方法が必要ではないかと感じています。あと夏と春に利用されることが多いのですが、日影がほとんど無いので、パーゴラを植物で被うなどして、今後は日影を提供したいと考えています。

ルーフドレンと桟橋の状況(左:施工中 右:現在)

伊東

屋上緑化を実践されて、感じられたことや気付かれたことはありますか?

村木さん

導入する前に、どう管理を行うか、その手法を事前に確立しておかないと、イメージ通りの屋上庭園にならないと感じています。1年目はきれいに草花が咲いたけれど、その後全然咲かなくなったことや日影になった花は全然伸びなかったこと、またどのくらいの水の量がこの屋上庭園に向いているのか、自動灌水装置の設定の仕方が分からなくて、植物に負担を掛けていた部分もあったと思います。今後は、もう少しその辺を踏まえて管理を考えていきたいと思います。山も手入れをしないでおくと荒れてしまいますね。山の木々の手入れと同じく、人間と共存する形の屋上庭園であれば、人の手を十分掛けないと愛される屋上庭園にならないと思います。屋上雑草庭園では困りますからね。方法や頻度には色々な選択肢があると思いますが、屋上庭園の造成には管理が欠かせないことを、伊東さんにはもっと広く伝えて欲しいですね。

伊東

努力不足ですいません(笑)設計に携われている方の今一番の悩みは、やはり管理の視点だと思います。私たちとしても、管理の必要性と手法の明確化について、今後も取り組んでいきたいと思います。

村木さん

その点では、緑化の目的を明らかにして、関係者で共有しておくことが大事だと思いますよ。この病院では、「老朽化した建物の補修」と「病院としての機能を持った屋上庭園」をつくりたいと、目的がはっきりしていました。目的やコンセプトがはっきりしていれば、管理もきちんと行われていくと思うのです。それが、特に目的が無いまま屋上庭園が造られると、管理も長続きしません。緑は生き物ですので、その屋上に適した植物もあれば、枯れてしまうものもあります。その場にあったものをうまく取り入れて、どうせなら綺麗に楽しめる、自分も行ってみたくなるような屋上庭園にならないと続かないのではないかと考えています。

伊東

屋上庭園もさることながら、青梅市立総合病院は施設全体がとてもきれいですね。シャンデリアのある玄関を入ると、コーヒーショップから心地の良い香りが漂っていて、目の前のお花屋さんの美しい花々も眼に優しいですね。壁にはステンドグラスやタイルが内装に使われていて、図書館やホテルのような雰囲気です。病院特有のニオイを感じず、清潔なイメージを大変強く受けました。

1階お花屋さんとロビーの風景(パンフレットより)

村木さん

そう感じていただいてありがとうございます。私自身、病院いわゆるホスピタルは、ホテルと同じ原語であるホスピタリティという「おもてなし」「歓待をする」言葉から来ているのではないかと考えています。このような、癒しの空間やアメニティを重要視した病院づくりを目指した取り組みは、星管理者が院長として着任されてから20年以上心掛けてきたことです。昭和59年の着任当時は、廊下には無造作にモノが置いてあり、壁にはたくさんの張り紙がされていて、完成から3年しか経っていないのに何でこんなに汚いのだろうかと思われ、そこから様々な環境改善を実践されたそうです。そのような背景から平成2年に南病棟が完成した際には、レンガタイルや木、アーチのような曲線を用いた空間や、トイレの臭いがしない心地の良い病院づくりが行なわれました。目指しているものを総称すると、「五管に心地のよい病院づくり」なんですね。「感」ではなく、「管(くだ)」です。口から取り入れるのも、鼻・耳・眼・触るのもの、これらはすべて「管」を通してわかるもの。内装やコーヒーショップに花屋、そして屋上庭園の取り組みのすべてが「癒しの環境整備」の一環として繋がっているのです。

伊東

大事なコンセプトを体現する1つとして、屋上庭園が存在しているのですね。やはり目的が明確化されていると、今、何を求められていて、どんな行動をするべきか分かりやすいと思います。最後になりますが、このホームページをご覧の読者へメッセージをお願いします。

村木さん

青梅市立総合病院の屋上庭園

病院というのは、ある意味「病の巣窟」と言えなくもありません。病院の建物の中にいるとどうしても患者さんは「病人」になってしまいます。しかし屋上庭園に出て、自然に包まれていると、自分が病気であることを忘れてしまうのではないでしょうか?健康になりたい!という気持ちが生まれてくるのではないでしょうか?建物の中にいるとどうしても閉鎖的になってしまいます。それを外へ出る手助けをする、出る場所を提供することが私たちの重要な役割だと感じています。今回患者の方々が自ら歩こう、歩きたくなれるような「気持ちが沸き立つ場所」が提供できたのは、大変うれしく思っていますし、屋上庭園の効果が現れてきていると実感しています。これからは、特にメディカルとコ・メディカル(医師や看護婦以外で医療に従事する人)の連携が大事だと言われています。我々施設の管理サイドとしても、屋上庭園を管理していくことが、どういう風に患者さんに影響していけるか考えていく必要があると思います。健康な人が多いと、病院も患者さんも元気になりますので、今後は、屋上庭園でのイベントなども考えながら、地域の方々にも訪れていただけるような空間づくりを目指したいと考えています。

伊東

本日は、大変参考になる貴重なお話をありがとうございました。

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