屋上緑化実践事例・取材日記
横浜港大さん橋国際客船ターミナル 屋上広場の巻

【インタビュー内容】その1

稲継

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

宜しくお願いします。大さん橋国際客船ターミナルも、ワールドカップに合わせた6月の仮オープンに続き、先月(9月)には屋上広場の全面供用が開始され、いよいよ12月の「大さん橋ホール」のオープンを残すのみになりました。平日、休日と何度か私も足を運びましたが、船に乗船される方だけでなく、市内観光の方や遠足の小学生、散歩やランニングでこられる方と、大勢の人々が集ってきますね。思い思いにくつろがれている姿が大変印象的です。

永山さん

屋上の広場は、24時間オープンになっているので、昼間だけでなく、夜景を楽しまれる方、明け方には散歩・ランニングで来られる方がたくさんいらっしゃいます。でも船の出入港の時が、見送りの方や写真を撮られる方などで一番賑わいますね。

稲継

私も先日、大型客船の出港に偶然立ち会うことが出来ました。やはり船が入るとターミナルの景色も大きく変わりますね。

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

永山さん

そうですね。このターミナルは船を引き立てるように設計されています。

稲継

この国際客船ターミナルの設計については、国際コンペが実施されました。世界41カ国から660件の応募の中から、foa代表のアレハンドロ・ザエラ・ポロ氏とファルシド・ムサビさんの案が最優秀作品に選ばれたわけですが、コンペ案でのテーマは、どのようなものだったのですか?

永山さん

国際客船ターミナル設計時の国際コンペ
クリックすると大きい画像がご覧になれます。

コンペ案の基本は「こういうプログラムを考えていくと、こういう空間が提供できます」という機能の提案がメインでした。 彼らが「ノーリターン」と呼んでいた、一枚の模式図がスタートなんです。客船ターミナルとしての機能、出入国ロビーやCIQ (税関・入管・検疫施設)、駐車場、送迎デッキなどが、行き止まりなく繋がっています。プログラムとしては、あまり複雑ではありません。

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

この機能を空間にしたかったということです。そして、船で外国から来られる場合には、このターミナルが日本の玄関になりますね。 そのようなスタート地点の導線に障害物があるよりは、 ずっと滑らかに連続していくほうが良いのではという発想から、いろいろな機能を滑らかに結んでいくことが考えられました。つまり床が滑らかに壁になり、滑らかに天井へと、面がどんどんねじれて、 グルっと一体になって連続していくような、そんな非常にユニークなイメージです。

稲継
入口のスロープを上がっていくと、自然と屋上広場へ繋がるのも、このような考え方がベースになっているのですか?
永山さん

そうです。交通広場という道路の部分から、滑らかに連続していって、いつのまにかエントランスに入り、スロープなどでそのまま連続して駐車場や屋上へ入っていけるように繋がっています。

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

稲継

屋上はウッドデッキで覆われていて、歩くと心地よく感じます。また芝生の緑が、海と空の青に映えて気持ち良いですね。屋上の使われ方については、コンペの段階から、ある程度決まっていたのですか?

永山さん

屋上を開放することについては、コンペ案の中に入っていました。この客船ターミナルのすぐ近くに、古くから整備されてきた山下公園があります。この公園と今回の客船ターミナルの敷地は、ほぼ同じスケールなんです。そこで彼らは、コンペ案の中に、「山下公園を90度グルグルと回してみたらどうだろうか?」という考え方を盛り込んだそうです。しかし「同じ機能、同じ大きさのスペースで、かたや高木がたくさん植わっていて、芝生広場が広がっている山下公園がすでにあるわけなので、敢えてまた同じものをつくる必要があるのか?」という疑問がありました。どちらかというと、日本の都市公園は高木が植わっていて、芝が生えていて、花があって散策できる空間があるという構造が多いですね。しかし基本的に石の文化であるヨーロッパの都市の広場という考え方に立つと、街路があって、その行き止まりに教会や広場があって、そこに何があるかといえば、何もないんです。ただ単に石だたみがずっと続いていて、でもそこには明らかにちゃんと空間があって、日曜日になれば、教会に行った人たちが、ミサの終わりに団欒しているスペースだったりとか、市場が出たりとか、色々なプログラムを消化するための機能として存在しています。同じような機能を、今回の客船ターミナルの屋上に持ち込んで、創りたいというのが彼らの考え方でした。

稲継

では屋上の芝生広場は、どのようなプロセスで生まれてきたのですか?

永山さん

横浜港大さん橋国際客船ターミナル 屋上広場の芝生

「出来るだけ突起物を無くして、いろいろな用途に耐えられるものにしたい」という意図から、緑地という考え方は当初ありませんでした。しかし、この建設工事が国からの補助事業でもあることや、横浜市の緑に関する条例などから、緑化という観点は避けて通れません。ただ海の中に飛び出ていて、周りに遮るものがないターミナル上部で樹木を含めた植栽を行うとなると、荷重の問題だけでなく、風の影響や潮の問題など、諸々の技術的な問題が発生します。これらの技術面とデザイン面の両者を踏まえ、我々設計サイドと行政サイドの協議の中で、ヨーロッパの広場の考え方を参考にしながら、今回のような芝生を利用した広場にすることが決まりました。

稲継

屋上広場の主となるウッドデッキの選定はどう行われたのですか?

永山さん

こちらも、コンペの段階で素材については決まっておらず、表現としてラインが引かれたパースになっていました。ウッドデッキが選択肢に上がった経緯については、エピソードがあるんです。彼らが当選した後、審査員の伊東豊雄さんと昼食をとる機会があって、この案の話になった時、「そうそう屋上がウッドデッキになっている案だね」と伊東さんがおっしゃったそうです。伊東さんは、そういう印象で捉えられていて、彼らは最初キョトンとして、何のことを話しているのか分からなかったそうです。実はウッドデッキの案は、伊東さんの誤解がきっかけになったんです。その時は「ああ、なるほど」と思っただけで、その場で決定した訳ではないんですけども、検討材料の1つになりました。屋上広場の舗装材としては、空間の一体化を持たせるためにも室内と室外で、同じ素材を使いたいという意図がありました。

横浜港大さん橋国際客船ターミナル 屋上広場

内部で使用出来て、外部で使用出来るものとそうなると、素材は非常に限定されてしまいます。それに重量的に重くならないものということで、最終的にウッドデッキという選択肢が残りました。屋上面には、立ち上げ材などの突起物を作らないように、二重床のシステムを採用して、設備や植栽の基盤は、その隙間の中におさまっているのですが、この二重床の仕組みに耐えられるものとしてはウッドデッキぐらいしかなかったということも採用の理由です。素材は固い材質として「イペ材」を選んでいます。 一時は全部アスファルトで覆うという話も出たりと素材決定までには紆余曲折がありました。

稲継

横浜港大さん橋国際客船ターミナル

ウッドデッキと芝生の広場を歩いていくと、先端からはすぐ海というのは、不思議な気分ですね。


永山さん

海との関係が出来ている施設というのは、なかなかないと思いますよ。

稲継

ターミナルからの一体感のあるロケーションは、この場所から実際に見渡してみないと実感できないですね。MM21、クイーンズスクエアから始まり、赤レンガパーク、山下公園、マリンタワー、ベイブリッジ、大黒埠頭と一望できますね。それに新たに出来た開港の道が、それぞれのポイントを繋げる重要な要素になっているのが、よく分かります。

永山さん

ターミナルからのロケーション

天候が良ければ、富士山も見えますよ。横浜には、あまり富士山のイメージはないですけれども、実際には街なみのさらに奥に富士山が見えるんです。特に建物が低かった昔は、船で来日する時、本当に富士山に向かって入ってくるような感じがあったと思います。日本イコール富士山という印象は、多分こういう風に感じた人たちが伝えていったのかもしれませんね。


稲継

このターミナルの仮オープンが今年の6月ですから、まだ4ヶ月ですが、この広場を利用してイベントなども行われているのですか?

永山さん

屋上広場での新車展示会の様子

例えば夏の花火大会の時期には、まだ工事中の部分があり、今年は限定2000名でしたが、観賞会を行ったり、多数の帆船が寄港した横浜港国際帆船まつりの舞台になったりしています。また横浜ハワイイ・フェスティバルでは、屋上広場で新車の展示会も開かれました。


稲継

車が通れるのですか?

永山さん

はい。管理車両が入れるように設計されています。

稲継

ワールドカップの際には、ここで前夜際が行なわれたとお聞きしましたが。

永山さん

実際には、ターミナルを会場としたのではなく、100m×200mの浮島であるメガフロートを接岸して、利用しました。約15000人の来場者があったそうです。設計を進める上で、このような「建物に他のものをにつけて、また新たな用途を創りだす(プラグイン)」というソフト面の提案も行っています。

稲継

観光スポットとしての集客施設であり、客船ターミナルという港湾施設であったり、イベント会場であったりと色々な機能が複合されているんですね。

永山さん

私たちは、「建築」をつくってきたわけではなく、「空間」をつくってきたんですね。使い方次第で、様々な可能性を生み出す母体としての空間を作ることができたと思います。そして、この土地がもともと持っているポテンシャルが、より高まる施設になったと思います。

稲継

貴重なおはなしをどうもありがとうございました。

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