屋上緑化実践事例・取材日記
横浜港大さん橋国際客船ターミナル 屋上広場の巻

【インタビュー内容】その2

稲継

屋上の芝生広場について、具体的にお伺い致します。施設全体が「滑らかさ」の概念で包まれていますが、それは勾配のある芝生広場にも通じていますね。

屋上の芝生広場

永山さん

はい。建物が起伏に富んでいるため、芝生面においても、フラットではなく、勾配のある斜面にしたいという意図がありました。そこで過去の実績を調べたところ、これだけ大規模なものは、なかなかないものの、傾斜の屋根などでも事例があり、計画を進めることになりました。しかしこのターミナルは、埋立地でもありますし、構造的な側面からも建物全体を軽量化する必要がありました。建物構造においても、一般的な鉄筋コンクリート造(RC)ではなく、鉄骨造(S造)を採用しています。 全体的な軽量化の方向性の中で、どう植栽を計画していくかということで、設計時点でもメーカーや業者の方々から色々意見を頂き、その中から植栽基盤には、軽量の人工土壌を使用する方針が決まりました。ただし建物の形状から、土壌厚が深くなるところがあり、そういう部分には嵩上げ材として、発泡スチロールのEPSブロックを利用しています。


稲継

設計作業の際に、留意されたのはどのような部分ですか?

永山さん

設計段階では、主に芝生の生育がどうかということと、土壌が地崩れを起こさないかどうかについて主に検討しました。材料の選定に当たっては、施工する一年前に試験用のモックアップを行い、実際の現場に即した勾配の試験区を作り、芝生だけでなく、花やセダムも含めて7種類のパターンで試験を行いました。

稲継

結果はいかがでしたか?

永山さん

生育は、やはり土壌によってバラツキがありましたね。一番の心配だった土壌面の崩れに関しては勾配の一番きつい面をとりあげて、モックアップとしましたが、結果としては地崩れを起こすような試験区(ロット)はありませんでした。 

稲継

実際の施工に当たって注意されたことは、どんなことですか?

永山さん

工事の段階で重要視したのは「施工中の資材の飛散」です。特に土壌の扱いが焦点になりました。軽量土壌には、重さが大変軽いものもあったのですが、今回は敢えて、軽量土壌の中でも重めのものを選ぶことになりました。

稲継

現在人工土壌は、自然土壌の1/3程度(比重0.6)のパーライトなどを主体にしたものと、自然土壌の1/2程度(比重0.8)の若干重めの天然母材を主体としたものの2つが主流になっています。パーライト主体のものは、大変軽量なのですが、乾燥状態で搬入されるために、今回のような風の強いところでは、施工時に飛散してしまうというデメリットも内在しています。今回は、軽量の人工土壌としては、若干重めなほうの「ビバソイル」を使用して頂きましたが、特に飛散についてのトラブルはありましたでしょうか?

永山さん

施工面において、特に問題はありませんでした。

稲継

芝生の種類やメンテナンスについてお伺い致します。今回の芝生はどのような種類のものを利用されていますか?

永山さん

芝生は改良型のコウライシバで、ウィンターフィールドです。

稲継

芝生の生育状況はどうですか?

永山さん

非常に良好ですよ。

稲継

今後の芝生の管理については、どう行われますか?この現場ならではの管理はあるのでしょうか?

永山さん

芝生管理

それは特にありません。土壌厚が薄いこともあり、散水については、自動灌水装置でサポートしますが、それ以外の芝刈りなどの維持管理は、通常の公園の芝生管理と同じ考え方をしています。


稲継

管理はされるのですね。

永山さん

もちろん管理はします。管理がいらない植物は、なかなかないですからね。屋上緑化には、雑草を生やせば良いという考え方もありますが、利用していただくための施設としては、難しいところがあります。

稲継

自動灌水装置には、雨水の利用もされていますね。

永山さん

トイレの洗浄水と、散水用の水については、雨水を利用出来るように設計されています。ただし雨が少ない時には、上水を入れ込んで、その機能を継続できるような仕組みになっています。現状は上水だけの利用ですが、雨水の状況が安定してきたら、切り替えていこうということになっています。

稲継

これだけ建物の形状に起伏があると、排水が大変だと思うのですが、その点については、どうご設計されたのですか?

永山さん

屋上広場は、二重床になっているため、雨水は、一度ウッドデッキの下に落ちて、下の面で受けて、排水口に向かいます。しかし今回の現場では、通常の陸屋根のように、面積ごとに排水口を決めてそこに勾配を合わせるといった一般の方法は使用出来ません。三次元上で建物の形状を把握して、この水はどっちに流れるかという細かいチェックが必要のため、コンピューターの3Dのデーター上に配管を組んでいって、問題がないかどうかチェックしたりもしました。ひと夏が経過して、現状は特に問題はありません。

稲継

植栽地の中にも雨水用ドレン(排水口)が設置されているのですか?

永山さん

いいえ、植栽地の中には直接ドレンを設置せず、一度横方向(植栽地の外部)へ出しています。なぜ間接排水としたかというと、芝生を刈ったときのクズやゴミが雨どいに流れてしまうと困るからです。もし問題が発生したときに後から土を掘って、それからメンテナンスというのは非常に大変ですので、余剰水は緑地の外へ出し、泥だめを通過してドレンで受けています。

稲継

点検が出来るようになっているのですか?

永山さん

部分的にデッキが取れるようになっています。

稲継

灌水タイマーを設置

灌水タイマーが設置してあるところと同じですね。


永山さん

そうです。

稲継

今回使用された防水はどのようなものだったのですか?

永山さん

防水については、設計段階では、ウレタンとFRPの複合防水だったのですが、工事段階では、超速硬化ウレタンを二度吹きする形になりました。基本的に耐根性については、問題ないと考えていますが、さらに耐根フィルムを敷設してあります。

稲継

今、建物緑化が大変話題になっています。今後の建築と緑の関わり合いについて、永山さんはどうお考えですか?

永山さん

建築と緑の関わりは、当然のことになっていくと思います。緑といっても、「利用する緑」「見る緑」「環境に貢献するための緑」と形態は様々だと思います。今は、エコロジー的な発想の緑が注目を集めていますが、ただそれだけではつまらないですから、出来れば開放して頂いて、人が緑と接するチャンスがどんどん広がっていければいいなと思います。ヨーロッパの場合は、屋上というより中庭が充実していますね。都市によって、緑の導入箇所や形態も異なるのでしょうが、緑と人との距離をなくすような施設が増えて欲しいと思います。

稲継

どうもありがとうございました。

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